編集後記
 板妻駐屯地は、正門を入ってすぐ正面に、昭和天皇が御手植された大きな立派な松があります。そして、警衛所から本館前までのスロープを下る間に、他の高木や、デルタに植えられた芝があります。そこを通ると私は、旧陸軍の皇族廠舎(しょうしゃ)があった時代、その当時の品のある空気が時代を超え、どこかしら漂っているような気がするのです。

 左手には「湧水庵」という名前のついた隊員クラブがあります。隊員クラブ自体は、昭和44年に作られましたが、「湧水庵」は第15代の石飛連隊長が、連隊長官舎庭を開放し階級を問わずの集会場とし、本音で酒を酌み交わし、富士山の地下水が泉のごとく湧き出るのと同じく、知恵とやる気が湧き出るようになれと、名前を付けられました。今は、連隊長官舎は近代的な集合住宅の一部屋となっていますが、「湧水庵」は看板と共に隊員クラブに残っています。この名前と看板に私はとても惹かれるのです。

 隊員クラブの下には、地域の協力者たちが再建した資料館、そして、橘中佐の銅像、内田軍曹栄光の碑があります。橘中佐や内田軍曹が所属していた静岡歩兵第34聯隊は、静岡市の現在の駿府公園に駐屯していましたが、その郷土部隊のナンバーと精神を受け継ぎ、静岡県を警備隊区とする第34普通科連隊がここには居ます。

 現在の連隊長兼駐屯地司令、田上1佐の要望事項は「連隊長に惚れろ!」です。これは時として中隊長に惚れろ、小隊長に惚れろになります。つまり、上官に惚れろと言うことです。「惚れる」ということは、好きになる、尊敬するということですね。旧軍とは違い民主的な自衛隊ですが、この国防という目的を持った組織の中で、いざ事が起こった場合に、目的や説明をすることなく命令が下されることがあるかもしれません。そんな時に、猜疑心を持って従うのと、この上官の命令なら間違いはないと思って従うのと結果の差は歴然です。でも、人は無理やりに惚れさせることはできません。ですから、上官たるもの、連隊長自身を含め全隊員に、他人に惚れられるだけの人間になれと言っているのと同じことなのです。かつての、静岡歩兵第34聯隊第1大隊長、橘中佐は、まさに部下に惚れられた人でした。

 板妻駐屯地には、昭和29年群馬県新町駐屯地に創隊した伝統ある第3陸曹教育隊を始め、駐屯地業務隊・富士地域援護センター・第420会計隊・第4普通科直接支援隊・第309基地通信中隊板妻派遣隊・第104地区警務隊板妻連絡班等の部隊がありますが、縁あって板妻を職場とされたかたは、人徳ある橘中佐の遺訓に触れ学んで欲しいと私は思います。
 そして、生活体験や開放日に板妻駐屯地を訪れる方々、橘中佐の残された「老婆心」これは、軍人ではなくても、今の時代であっても、社会人の心得として心に留めていただきたいものだと思います。
 旧軍隊と自衛隊とは違うもの。でも、その中に流れる良き伝統と精神、これは時代が変わってもずっと受け継がれていって欲しいと私は思います。

 自衛隊のことを知らず、まして旧軍のことも知らず、そして、自分が生きてきた昭和の時代のことも知らずに過ごしてきた私ですが、板妻駐屯地の紹介をするにあたって、いろいろなことを知り、考えました。

 私たちの先祖が培ってきた伝統や文化や自然。それは素晴らしいものだと私は思います。
 個人の主義主張を尊重する現在の日本。でも、それは自分勝手を尊重するのではないのですね。「和をもって貴しとする」から始まる聖徳太子の十七条の憲法、これは人としての基本の教えのような気持ちが私はします。
 第一条の「和をもって貴しとする」は、以下の条で、強制的に従わせるものではなく、人は人それぞれにこころがあるのだから、他人の意見をよく聞き、たくさんの人と話し合いなさい。私利私欲を捨て真心を持って仕事をしなさい。トップに立つものは道理をわきまえなさい、そうすれば下に付くものは自然に従う。十七条の憲法を私はそう解釈しています。1400年も前にこのような素晴らしい憲法をわたしたち日本は持っていました。
 日本語という言葉を持ってはいても、それを記す字を持っていなかった日本は中国から漢字を学びましたが、日本語は捨てませんでした。漢字を利用し日本語を表記し、「かな」という文字もあみ出しました。また、ほかにも大陸から様々な文化を学びましたが、古来からある日本の文化に取り入れて独自の文化としています。排除することなく、かといって染まりきってしまうのではなく、良いところを取り入れる。それこそが、「和」なのではないのかなと私は思います。

 歴史の中で、私たち日本は過ちも犯しました。でも、その過ちは歴史のすべてを否定しなければいけない過ちなのでしょうか。良いものも悪いものもその事実を正確に知り、過ちは二度と繰り返さないこと。良いものはそれを広めていく。それがより良くなるということなのだと私は思います。
 素晴らしい伝統と文化と自然を持った日本。その日本という国に私は誇りを持ちたいと思います。その誇るべき日本の伝統と文化と自然を大切に守り、より良く発展させ未来に継いでいきたいと思います。それはつまり、日本を愛するということなのだと思います。
 自分の住む国に誇りを持つこと、愛すること。それは他国を否定するものではなく、同じように誇りを持った国や人を認め、尊重することができるようになるのだと私は思います。世界中の国に住む全ての人が、自分の国に誇りを持ち、愛し、国の大小、経済力の大きさに左右されることなく、「和をもって貴しとする」の精神で他国を認め尊重することができる日。その日が一日も早く来ることを私は願ってやみません。

 末筆になりましたが、このホームページを作成するにあたって、第20代第34普通科連隊長兼板妻駐屯地司令田上1佐をはじめ、第1科長川島3佐、広報班の吉田曹長、その他駐屯地の皆様に多大なるご協力をいただきましたことをここに感謝致します。
2003年6月20日
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